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新興宗教にどっぷり浸かる両親のもとで育てられた主人公・ちひろが成長とともに「自分のうちはどこかおかしい」と気づき、両親と周囲の人々との間で板挟みになる物語です。
両親からかわいがられて育ったちひろは、あやしげな宗教儀式を受け入れ集会にも参加するのですが、ある日、両親が周りから不審者扱いされていることを知ってしまいます……。
ちひろは「うちはおかしいんだ」と思う気持ちと両親に寄り添いたい気持ちとで揺れ続けます。ちひろのけなげさに胸が痛み、ちひろの両親に「どうか目を覚まして…!」と思いましたが、彼らが信じるものをきっぱり否定するのも違うと思い、読みながらわたしの頭の中でも板挟み状態になりました。
人生に正解や間違いはなく、致命的なことさえなければどんな生き方を選んでも良いはずです。つい「正解」のようなものを求めてしまっている自分に気づき、唸らされた名作でした。
本作は10月に芦田愛菜さん主演で映画化されます。ちひろの心情を芦田愛菜さんがどのように演じるのか、併せて注目したい作品です。
本誌連載でお馴染みの川上未映子さんも、価値観を揺るがす作品を出されています。
『夏物語』はAID(精子提供)という形で子どもを産むことを選択した主人公・夏子の生き様を通して「子どもを産む」と決めた女性に突きつけられるデリケートな問題を徹底的に描き尽くした意欲作です。
夏子は簡単にそうした選択をしたわけではなく、AIDの是非はもちろん、子どもを産まない人生を歩む人、子どもを産んだことで自由がなくなってしまった人などさまざまな立場からの現実的な声を聞き、悩み抜いた結果、自分の生き方を選択します。
わたしはこの作品を読みながら、いろんな選択肢があるのだ……と改めて感じるとともに「あなたはどう思う?」と常に問いかけられているように感じました。
夏子が葛藤の末に答えを出すシーンは鳥肌もの。自分と向き合うことの大切さを実感させられます。
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『月と六ペンス』著/サマセット・モーム 訳/金原瑞人 (新潮文庫)
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『月と六ペンス』著/サマセット・モーム 訳/金原瑞人 (新潮文庫)
¥693
Credit: 25ans40歳にして絵を描くことを決め、これまで築いてきたものすべてを投げうって画家に転身したある男の半生が描かれた物語です。
男はロンドンで株式仲買人の仕事をし、妻と子にも恵まれとても安定した暮らしをしていましたが、ある日突然パリへ出奔してしまいます。語り手の「わたし」が男の消息を辿ると、彼は絵を描くことに没頭し、他のことには一切興味を持たない冷酷な男に変わり果てていたのでした……。
どれだけ家族に恨まれようとおかまいなしに男はパリでの生活を続けます。身勝手すぎる男に「わたし」は憤りますが、同時に絵を描くことへの並々ならぬ情熱も感じ、邪悪な魅力に惹かれてしまいます。
実は、わたしも語り手と同じく男の情熱の強さに惹かれてしまいました……。男の奔放な生き様には嫌悪感を覚えますが、男の絵に対する情熱はどれだけ生活が困窮しても揺らぐことがありません。この情熱の強さこそ、激動の時代を生き抜くわたしたちが大切にすべきものではないかと思ったのです。
男はフランスの画家ポール・ゴーギャンがモデルとされています。ゴーギャンの作品と照らし合わせながら読むと思わぬ発見があるかもしれません。
4ささかわまりな 以上、ニューノーマル時代に読みたい「視野の広がる本」3冊をご紹介いたしました。これからの未来がどうなるのか誰にも予測することはできません。ですが、既存の考えにとらわれず、たくさんの選択肢に触れ、そして自分の心に向き合いベストな選択をすることができれば、どんな変化も乗り越えられるとわたしは信じています。気になるものがあればぜひチェックしてみてくださいね。
ささかわまりな
視野が広がる読書が好き。会社員業のかたわら、年間150冊以上読破するうちに趣味が高じて、ブックコーディネーターとして起業。「やわらかい視点で物事を見たい」を信条に、読書ブログ・選書サービスを運営している。芥川賞・直木賞受賞予想が趣味。30代女性向けパーソナルライフコーチングサービスも手掛ける。読書ブログ「ささかわのやわらか読書ブログ」https://ameblo.jp/nrm321nrmInstagram : @sasamari.bookTwitter : @mrn123mrn